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@itan-journ@l praha

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『Mr.ホームズ 名探偵最後の事件』ホームズ93歳、もうひとりの「あの女(ひと)」と日本






サー・イアン・マッケランが93歳のホームズを演じる!というニュースをキャッチしてからずっと楽しみにしていました。聖典でもホームズは引退後に海が見渡せる田舎で養蜂をしながら老後を送っているという設定になっています。その設定を引き継ぎながら、邦題にも付いている忘れられない「最後の事件」の創作を付け足して晩年のホームズと家政婦の息子との心の交流を描いたヒューマンな作品になっています。

イギリス人監督による純イギリス映画なのかな~と思ったら、監督は「 ドリームガールズ」のビル・コンドン監督でちょっと意外でした。感想は・・・よかったです!ホームズがヨボヨボで痴呆気味になっちゃって、ワトソンくんもマイクロフトもハドソンさんもみーんな鬼籍になっちゃってひとりぼっち。ああ、親しい人が皆行ってしまって、一人だけ長く生きるって辛いなあ・・・切ないなあ・・・嫌だなあ・・・筆者は家族や友達よりも先に死にたいなあ・・・と思わされるんですよ。でも、それでも生きて行く。ホームズファンでなくても感じ取れる普遍的なメッセージがあるんです。


※ネタバレします。


93歳のシャーロック・ホームズ(イアン・ マッケラン)は田舎の一軒家で住み込み家政婦のムンロー夫人(ローラ・リニー)とその息子ロジャー少年(ミロ・パーカー)と一緒に静かな余生を送っていました。ホームズはロジャー少年に養蜂の手ほどきをして、少年もホームズになついています。二人の間にはおじいちゃんと孫のような関係が出来上がっていました。しかし進む痴呆。ホームズはロジャーの名前さえも覚えられなくなって来ていたのです。そして、彼には引退を決意させた最後の事件がありました。その事件は長年、彼の心の奥に引っかかっていたのです。思い出せるうちに最後の事件のことを書かなければ・・・とペンを取りますが、なかなか上手く行きません。最後の事件の他にもう一つ、ある日本人 男性ウメザキ(真田 広之)とのエピソードも同様に忘れられない思い出として残っていました・・・というあらすじです。

上に貼った予告編には登場していますが、筆者は真田広之が出てることを知らなかったんですよね。だからオープニングクレジットを見て「ええっ?!」と驚いてしまいました。真田広之・・・いまや英米の映画に登場する日本男優はほぼ彼では?(女優は菊地凛子)というくらい出てませんか? ホームズが引退後に日本へ旅行したエピソードで出て来るんですよ。ホームズ聖典と日本との関係と言えば、ライヘンバッハの滝でモリアーティー教授との死闘で使われた日本の武術「バリツ」じゃないですか。ホームズ、日本へバリツ留学?と思いましたがそうではありません。植物の研究に行ってたんですね。戦後すぐくらいの日本が舞台なんですが、やっぱりセットにちょっぴり違和感があるのは否めません。特に食堂がなんか中国みたいだったのがちょっと残念でしたね。まあ素晴らしい映画なのでこれは重箱の隅なんですが。

ホームズはウメザキと一緒にヒロシマへ行き、原爆投下の傷跡生々しい焼け野原になった街を見ます。そこでは家族を失った男が自分の周囲に並べた石のサークルの中で懸命にお祈りをしていました。「あの石は彼の亡くなった家族 を表しているのです」と説明するウメザキ。そしてホームズは焼け野原に生えていた山椒の一種(?)を採取してイギリスに帰ってからも大事に育てているのでした。

しかしサーのホームズ、さすがですね。サーはまだ70代ですが、ちゃんと93歳に見えるんですよ(老けメイクもあると思いますが)。さすがのホームズも年波には勝てず、痴呆とかになって家政婦さんのローラ・リニーに迷惑かけたりしてるんです。ホームズは実験の途中で意識を失ったりしてるのでローラ・リニーは「もうお義父さん、本当にいい加減にしてくださいよ!」というテンション。手がかかる舅を世話する嫁感アリでした。しかし頭脳や精神はまだしっかりしてるんですよね。ロジャー少年の子役がまた可愛いこと。ホームズとロジャー少年が一緒に養蜂をしたり海水浴したりするシーンが本当に微笑ましいんです。田舎の風景も美しいし。そういやホームズと子供って取り合わせも聖典パロディ含めてレアな気がしますね。

さて回想で語られるホームズを引退させた最後の事件とは、非常にミステリアスなものでした。依頼人のケルモット氏(パトリック・ケネディー)の妻アン(ハッティ・モラハン)の様子が近頃おかしいので探って欲しいというもの。二回流産をしたアンは精神のバランスを崩してしまい、夫のすすめもあってグラスハープを習い始めました。アンは次第にグラスハープにはまり、足繁くレッスンに通うようになります。そこから彼女の様子がおかしいのに気が付いた夫は彼女を尾行して、教室へ行くのですが先生から彼女は来ていないと知らされるのです。一 体彼女は何をしているのか?ということなんですが、ちょっとだけ聖典の「唇の曲がった男」の導入部に似てるなと思いました(妻と夫の立場が逆ですが)。回想のホームズも、もちろんサーが演じるのですが、可能ならおファス(マイケル・ファスベンダー)にして欲しかったかも・・・なんて思ってしまいました。だってマグニートの若き頃はおファスですからね(笑)。

若いホームズと言えば、サーが映画になった自分の冒険を観に行くシーンがあります。ここでホームズを演じているのはニコラス・ロウ。彼はスピルバーグ総指揮の映画「ヤング・シャーロック/ピラミッドの謎」(1985)で、ティーン時代のホームズを演じたお方です。この映画、筆者も観たことがあります。ティーン時代という設定なんですが、ワトソンくんとも既に友達になっており一緒に冒険をするという映画(確かモリアーティー教授もいた)。劇中でホームズには美しいガールフレンドがいるのですが、彼女が冒険の途中で死んでしまったので以後は彼女に操を立てて女嫌いになるという泣かせる話でした。「へー、あの男の子がねー、立派になっちゃって」と思ったらもうニコラス・ロウはアラフィフでした。でもあんまり変わってない。本作でのニコラス・ロウはジェレミー・ブレットがドラマで着てたみたいな黒いタイとスーツを着ていて、それも嬉しかったです。

アンは薬局で毒物にもなる薬を買ったり、夫の銀行口座からお金を引き出したりと怪しい行動を取っていました。夫を殺害か・・・?と思いきや、実は薬は自殺のためでお金を引き出したのはは自分と子供たちのお墓を作るためという 悲しい悲しい理由だったのです。それを見抜いたホームズは、彼女を諭します。そのやり取りの中でアンが「私と孤独を分け合ってくれませんか?」と言って、ホームズもそれにちょっと揺らいでしまうんですよね。ホームズ自身が選んだことではありましたが、彼もずっと孤独でした。孤独な二人の魂が交差するのが伝わって来る素晴らしいシーンなんですが、演じているのがサーなので(サーはゲイをカミングアウトしている)ちょっとだけ引っかかってしまいました。だからおファスだったら・・・などと妄想してしまったわけです。もちろんホームズは「旦那さんのところに戻りなさい」と言って彼女も納得し薬を捨てるんですが、結局線路に身を投げて自殺するのでした。こんな悲しい事件がずっとホームズの心に残っていたのです。彼はアンが忘れて行った手袋と、彼女の写真を今も大事に取っておいてあるんです。切ないのう・・・。いわばアンはもう一人の「あの女(ひと)」なわけですよ。

しかし心理描写が非常に丁寧な映画でした。ホームズとアン、ホームズとロジャー少年、ロジャー少年とお母さん、どのダイアローグシーンもキャラクターの想いがじわ~っと伝わって来るんですね。そういう丁寧に出汁を取った様な演出が重ねられてきているから、アンが自殺したと知った時や、可愛いロジャー少年がスズメバチに刺されて意識不明になってるシーンでは、もう「ええ~っ!!!」と観客も打ちのめされるんですよ。

痴呆が進んで行くけれども昔の忘れられない思い出を断片的にプレイバックし続けるホームズを見てると、先述したように「ああ、親しい人が皆行ってしまって、一人だけ長く生きるって寂しいなあ・・・辛いなあ・・・切ないなあ・・・できれば家族や友達よりも先に死にたいなあ・・・」と思ってしまうんですよ。私は特に子供の頃からホームズ物語に親しんで来ていて現役時代の彼のシビレル様な活躍を知っているからなおさら、名探偵の老境を見るのが辛い。ラスト近くで、ロジャー少年が回復してホームズと一緒に再び暮らすことになります。海の見える丘に座ったホームズは自分の周囲に石を並べます。「この石はワトソンくん、これはマイクロフト、これはハドソン夫人・・・」そして、ヒロシマで見た祈る男のように彼も亡き愛する人々へ祈りを捧げるのでした。


過去への感謝を持ちながら今現在周囲にいる人と心の交流を持ち、一日一日を生きて行く、というラストに落涙。そしてワトソンくん、マイクロフト、ハドソン夫人と石を並べるホームズ、アンに「私もずっと孤独だった」って言ってたけど、違うよ!理解のある素晴らしい人々に囲まれてとっても幸せだったじゃないですか!いつも献身的な友人で相棒のワトソンくん、助けてくれたり仕事をくれたりしたマイクロフト兄さん、面倒くさい下宿人だったホームズを母親のようにひたすら受け入れてくれたハドソンさん。ホームズが93歳にしてやっとそれを認められるようになったんじゃないかな・・・とも思えるのです。ホームズファンとしてキャラクターに思い入れがあるから落涙、落涙でした。アンだって辛い思いをして孤独だったかもしれないけど、あんなにいい旦那さんがいたのにもっと早く気付くことが出来ていれば・・・と思うと切ないですね。

そして、サーもどうか長生きして色々な映画に出てね!と思ったのでした。似た様な観賞後の気持ちとしてマイケル・ケイン主演の「Youth」を思い出しましたよ。どちらもおじいさん映画として素晴らしい出来になっています。ちょっと思ったのですが、おばあさん映画「マルタの優しい刺繍」や「人生、いろどり」や「マリーゴールド・ホテル 幸せへの第二章」は、おばあさんなのに新しいビジネス始めちゃったりしてパワフルだけど、おじいさん映画は過去への感傷とか死への不安などがメインになっている感じがしますね。「ラストタンゴ・イン・パリ」でも似た様なことを書きましたが、やっぱり女はリアリストで、男はロマンチストなんでしょうかね。

同じくホームズを題材にしたパスティーシュ映画「シャーロック・ホームズの冒険」もご覧頂けると嬉しいです。



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